【森ビル 杉山央】Tokyo Contemporary – 想いから磁力が生まれた [flags! 転載記事]

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東京、と聞くとあなたは何を思い浮かべるだろう。高層ビル群かも知れないし、あるいは雷門のような伝統的なスポットかも知れない。歌舞伎町のような繁華街や、渋谷のスクランブル交差点の人並み、もしかしたら風情の残る下町の商店街の活気かも知れない。都市の風景は、その人の記憶や印象、そして伝達される情報によって決定される。

そういった東京のイメージに今、新しい場所が加わったことはご存知だろうか。オープンから1年で230万人あまりが訪れた場所、それが「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」だ。カニエ・ウェスト、ジャスティン・ビーバーら世界のセレブリティを始め、世界中からこの場所を目指して人々がやってくる「新しい東京の風景」はいかにして生まれたのか。仕掛け人は森ビル株式会社MORI Building DIGITAL ART MUSEUM 企画運営室長の杉山央氏。世界でも注目を集めるスポットの成り立ちと展望、そして杉山氏の見つめる街の景色に目を向ける。(2019年11月 flags!掲載記事を転載)

景色と共に、文化をみせる展望台へ

──杉山さんがこれまで手掛けてきたプロジェクトを教えて下さい。

僕が今所属しているのは、森ビル株式会社の森アーツセンターです。主に六本木ヒルズの文化事業やアート部門を手掛ける部署です。ここ「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless(チームラボボーダレス)」を立ち上げる以前は、六本木ヒルズ及び森アーツセンターギャラリー、東京シティビューといった施設で展覧会やアートイベントを企画してきました。

ファインアートを扱う森美術館と比較すると、僕はまだアートになるまえのカルチャー、マンガやアニメ、ゲームなどを主に担当してきました。2016年に開催した「ジブリの大展覧会」の企画を行った際には、単に原画を並べるだけではなく、作品の持っている世界観をどう表現するかを考えて、来場された方がその作品に入り込んだような空間構成、体験をつくり出しました。

並行して、テクノロジーを使った新しい領域や、メディア・アートのプロジェクトにも取り組んできました。

──「Media Ambition Tokyo」ですね。

メディア・アートはずっと好きでした。学生の頃から「TEX MEX」というアートユニットで作家活動もしていたこともあって、優れたメディア・アートを世の中に紹介する手法を考えることも、僕のテーマになっています。

2013年から開催している「Media Ambition Tokyo」は、最先端のテクノロジーカルチャーを都市に実装するという実験的なアプローチで、「現象」をつくろうとしてきました。立ち上げはライゾマティクスの齋藤精一さん、JTQの谷川じゅんじさん、CG-ARTS協会の阿部芳久さんと、僕。毎年2〜3月の時期に、学校、美術館のチケットカウンター、本屋、ショッピングセンターの中のショールームといった、普段は展覧会の会場にならない場所を同時多発的に、メディア・アートの展示ルームに変えてきました。いつもの街の風景を変えることでその面白さを広く伝えたい、という意図もあります。

「Media Ambition Tokyo」は毎年開催するなかで、その業界や界隈ではある程度有名になってきたといえるかもしません。そこからアーティストも育ってきています。規模も拡大し、仲間も増えてきています。18年には孫泰蔵さんと水口哲也さんがボードメンバーに加わり一般社団法人を立ち上げました。

──意欲的なプロジェクトですよね。六本木ヒルズ展望台 東京シティビューは、「Media Ambition Tokyo」のメイン会場になったり、アニメの展覧会の会場になったりと姿を変えてきています。その中で意識されてきたことはなんでしょうか?

少し概念的になるのですが、「展望台」って景色を通じて都市を見せる場所ですよね。

「見せる」という機能について考えた時に、都市の表層的な部分を見せる景色だけでは不十分で、都市の中で起こっている人々の動きや交流=カルチャーを紹介することによって、東京の真の姿を見せることができるのではないか、と思ったんです。この数年間は、東京の今のカルチャーをどのように紹介するかを突き詰めて考え試行錯誤しながら、数々のイベントや展覧会をやってきました。

実は、将来つくってみたい施設があって。それは窓の無い展望台です。その都市で起こっている現象やカルチャーを紹介することで都市を観るといった、新しいコンセプトの展望台。これをつくるのが夢のひとつです。そういう意味では、ひょっとしたら地下に展望台があっても面白いかもしれませんね(笑)

──「展望台」の新しい解釈ですね、面白い。

今の東京の素晴らしさを伝える場所や、テクノロジーをつかった新しい表現によって、誰もがまだ体験したことのない「場所の持っている可能性」を追求したい、という想いを抱いていました。この想いが「チームラボボーダレス」に繋がります。

チームラボは当時から海外でも活躍していましたが、まだ東京に拠点を持っていませんでした。一方で、森ビルも人々の生活をより豊かにするため、文化的で魅力ある街づくりが必要だと考えている会社です。この二者の想い、「世界中から東京に人が集まるようなミュージアムをつくりたい」が重なって、「チームラボボーダレス」のプロジェクトがスタートしました。

「チームラボボーダレス」が高める、都市の磁力

──2018年6月のオープンから1年以上が経過した「チームラボボーダレス」ですが、手応えはありますか?

おかげさまで、開業前に想像していたことを大きく上回る反響になりました。1年間の来場者数は230万人です。ニューヨークのMoMAが280万人くらいですから、世界トップクラスの入館者数を誇るミュージアムが東京に生まれたと言ってもよいのではないでしょうか。

──ここまでの成功は予想されていましたか?

正直、不安でした。今年の6月に無事1周年を迎えることができ、ホッとしているところもありますね。

──世界中からセレブリティが、この場所を目指して来るという現象が起きています。

先日驚いたのは、カニエ・ウェストとジャスティン・ビーバーが一緒に来館し、Instagramにその様子をアップしてくれたこと。この2人が再会したことだけでも事件だそうですが、さらに、カニエ・ウェストはパートナーのキム・カーダシアンと一緒で、Instagramのフォロワー数で言えば億単位の世界トップランカーが同時に「チームラボボーダレス」に集まったということです。広告や撮影としてではなく、体験をしに、わざわざ限られた滞在時間のなかで施設に来てくれている。

森ビルは、世界中からヒト、モノ、カネを惹きつける都市の魅力のことを「磁力」と呼んでいます。都市の「磁力」を高め、日本経済のエンジンである首都・東京をより魅力的な都市にしていくことを目指していますが、「チームラボボーダレス」がその一翼を担っていると確信しています。

──その「磁力」から生まれる新しい動きやうねりのようなものを感じていますか?

例えば六本木であれば、ある程度人の流れの予想はできます。しかし、お台場は羽田空港からはアクセスしやすい反面、トラフィック的に気軽に寄れる場所ではないので、この立地条件が不安でした。

「チームラボボーダレス」が誕生して分かったのは、強いコンテンツ力があれば、人がそれを目指して移動するということです。自分の行動を考えたら当たり前ですよね。少し前は、以前から気になっていた渋谷のあのお店にご飯に行こうとか、自身の生活圏内で考えて行動していたのが、今は気になる場所を検索しGoogle Mapにピンを立てて、点から点で移動しています。

強いコンテンツに人は集まる。それを支えているのはテクノロジー。強いコンテンツであればあるほど、そのコンテンツ自体が勝手に広がっていく、そういった動き、うねりを、「チームラボボーダレス」で感じています。

コンテンツを強くする2つの同時代性

──「チームラボボーダレス」ではなぜ強いコンテンツが生まれたのでしょうか?

現代はデジタルの世界です。ディスプレイ上で展開される平面的なコンテンツは、移動中で自宅でも、手軽に見られるようになりました。

一方僕たちがやっていることは、この場所に、実際に来ないと得られない価値をいかにつくるかということです。「チームラボボーダレス」は、デジタルテクノロジーを駆使していながらそういったアナログな部分を残しているので、より独創的なのだと思います。

平面的なデジタル表現から脱して、来館者が映像に囲まれる。来館者が動くとそれに伴って環境が変化します。変化は、自分の存在がその環境との繋がりや、そこにいる来館者の全員との繋がりを感じさせます。スマートフォンやTVモニターでは決して実現できない世界。それこそが、体験の価値だと思っています。

デジタルの特徴のひとつとして、再現性が挙げられます。シークエンスがあるものは巻き戻しが効いて、もう一回見ようと思えば完全に同じものを見ることができますよね。コピーができるので何度も完全に同じものが見られる。それが一般的に言われるデジタルの良さです。

しかし「チームラボボーダレス」では、シークエンスがあるものは一切ありません。目にするもの全てが、コンピュータがリアルタイムに生成している世界、つまり、ライブなんです。「デジタルの世界のライブ」。シークエンスがなくてリアルタイムにコンピュータが吐き出す世界では、二度と同じ景色を見ることができません。一切の再現性がない。そして、自分がその場所に実際に行くことで世界がつくられていく。

──デジタルテクノロジーを使って、その特徴とは真逆のことをすることで、オリジナルの体験を創り出しているのですね。

そうです。ミュージアムのコンセプトである「さまよい、探索し、発見する(Wander, Explore and Discover)」にもその特徴や想いが込められています。

今は、行きたい場所はGoogleで簡単に検索して店内を覗いたり、欲しいアイテムはAmazonですぐに見つけて家に届けたりすることができますから、便利で幸せな世の中になったと思います。一方、この施設は、地図も順路もありません。どこに何があるのか分からない、世の中の流れとは全く逆のアプローチを取っています。便利とは真逆の、不便で不親切が自ら探し自分だけの体験をつくることに繋がり、結果、お客様の体験価値につながっていると考えています。

複雑で立体的な空間が、デジタルテクノロジーに包まれ、自分がその環境に影響を及ぼすことによって全てが一体化し、そこには一切の再現性がないということ。「チームラボボーダレス」でつくり出したのはそんな世界です。そしてその中を、順路ではなく自分の身体を使って探し回る。手探りで、その先何があるかワクワクしながら進むということ。

これからの要素が、今の時代で求められているのだと考えています。

──それは、時代の先を行っている取り組みだと考えていますか?

僕は、まさしくコンテンポラリーだと思いますね。

伝わらなかった仮説と、辿り着いた言葉

──最初から、全て計算してこの施設をつくったのですか?

仮説はありましたが、最初は全くうまく行きませんでした。

施設オープン前に関係者内覧会をした時は、ボロクソに言われましたね。全然ダメで。内覧会の参加者アンケートも5段階中1から2ばかり。それが分かったのは、オープンまで1ヶ月を切った時のことでした。「迷いながら探すことは楽しい」という仮説が独りよがりになっていて、全く伝わっていなかったのです。オープンまでに、できることを全てチューニングする必要がありました。

──確かに、「さまよっていいということが許される」ことは、現実にはなかなかないシチュエーションですね。打開策はなんだったのでしょうか?

来館者のマインドセットです。とても特徴的な施設ですから、館内に入る前に、どんな施設なのかを伝えるマインドセットが必要だということを、僕たちは完全にすっ飛ばしてしまっていたということに気付いたのです。

「さまよい、探索し、発見する」。実は、施設オープン直前のこの時に、チームラボ猪子さんとこの言葉に辿り着きました。来館者には入館前に、「これからみなさんが入ろうとしている美術館はこういう世界です」と、短い言葉でヒントだけを伝えること。ヒントがあれば、僕たちの仮説が成立するのではないかと、逆境の中で閃いたのです。その結果はご存知のとおりです。

好きなことを伝える大切さ

──新しいコトを興す時に、杉山さんが必要だと考えていることはなんですか?

自分が好きなことや、やりたいことを広く言うこと、ですね。僕はこれが好きだ、これがやりたいんだ、と。

自分のことで言えば、メディア・アートやテクノロジーが好きだと人に言う。言うだけで、それに関することや情報、そして仲間が集まってきます。

元来は、自分がしたいことを口に出すなんて照れくさかった。全て形になるまでうちに秘めるタイプでした。そうは言っても、物事って自分ひとりでは出来ませんし、プロジェクトが大きくなったらなおさらですよね。色んな人とつくり上げていかなければならないし、協力が必要です。自分の好きなことや考えていることを伝えて、まわりに知ってもらうことが、新しいコトを興すときの近道だと思っています。

そして、とても大事なのはピュアな気持ちを伝えているかどうか、です。出世したいとか、富を成したいとか、有名になりたいとか。そういう邪念があるものって応援しにくいですよね。その人が本当になにかを愛していて、深く、大好きだと表明することでこそ、周りは近づいてきてくれる気がするんです。そんな気がしませんか?

──そう思います。そういう時代ですよね

やるべき理由はあとづけでつくれるけど、やりたいって想いは、純粋にピュアな気持ちから出していく。そんなシンプルなことを、隠さずにいることが大切だと思います。

街全体を使って拡げていく、新しい関係性

──杉山さんのルーツについて聞かせてください。学生時代にゲリラ的にアート活動をされていたとか?

時代が時代だったら、YouTuberだったかも知れません(笑)。アートやデザインが好きな学生でした。生活の中にアートがあったり、買ったりできるような場所があったら良いなと思っていて、インテリアショップのIDÉEの代表、黒崎輝男さんに「僕はこういうことがやりたい」って直談判に行ったんです。すると「君、面白いね!」と、当時神宮前にあった「スプートニク」の店頭に自動販売機を置かせてもらえることになりました。そこには、自分がデザインしたTシャツや美大生のつくったアイテムを置きました。街を楽しくしようというコトがしたかった。原宿のラフォーレとかに自動販売機を置いたり、アーティストに作品をつくってもらって売ったりしました。

コラボしてくれとか言われたりして、ムーブメントになって、雑誌で特集組まれたり。ファッション雑誌のアートディレクターを1年やったりもしました。

──学生の時に、ですか?

そうです、学生の時。「働いたら負けだ!」と思っていたから(笑)。

並行して、グループを組んで。ユーモアを持った仕掛けをしていました。具体的には・・・かっこよく言えばグラフィティですが、もう少しピースな感じで。街の銅像とかキャラクターにマスクを被せる活動をずっとしていました。例えば「今日はカーネルサンダースさんだけにかぶせよう」とか「福沢諭吉の銅像にアトランティス(海の王者の覆面レスラー)のマスクかぶせよう」とか。もちろん、マスクは外したら元に戻ります。ちょっと街の表情を変えたら面白いかなあと思って活動していました。

──面白い!

それと、少しだけプログラミングができたので、カメラで人を撮影し、その動きを捉えて、頭の上に吹き出しを投影して自動追尾させる仕組みをつくったりしました。Kinectが出る前の話です。道行くおじさんの頭の上に、「おなか減ったなー」とか「あの子かわいいな」とか(笑)。これも面白がってくれる人がいて、赤坂サカスの開業イベントで半年間、実際に投影したりしていました。

──それって、今の「チームラボボーダレス」とつながっている部分ありません?

もしかしたら、この施設をその最終形として考えていたのかもしれませんよね。

──杉山さんがこれから仕掛けていきたいコトを教えていただけますか?

この「チームラボボーダレス」を通して、テクノロジーを駆使しながらそれでも人が中心で、かつ境界なく環境と人、また環境同士が繋がっているという世界を、ある程度つくり出せたと思ってはいます。コンセプトとしても、手応えはありますね。

一方、「チームラボボーダレス」でできなかったこともあります。技術的な限界があり、この世界は箱に閉じ込められた中でしか表現できません。本来であれば、箱の中に閉じ込める必要はないはずですが、今の段階だと映像装置の問題などがあり、箱の中に暗闇をつくって投影しなければ実現不可能でした。これからテクノロジーがもっと進化していけば、街中にいろんな表現媒体が出てくるでしょう。それも非常に近しい未来のはずです。

「チームラボボーダレス」で実現した、人と人のポジティブな関係性や、空間そのものと人間との境界をなくすような新しい関係性のようなもの。それを箱から解放し、街全体を使って拡げていく。そんな未来を描いていきたいですね。

2019年11月 flags!掲載記事を転載