ISSEY MIYAKEがホリデーシーズンに咲かせた「FLORIOGRAPHY」をご存じの方も多いのではないだろうか。想いを1枚の布に託し、大切な人に贈る現代の「花言葉」。世界11カ国の店舗とオンラインストアで展開されたこのアイテムをISSEY MIYAKEとともに手掛けたのはTakram。プロダクトからサービス、そして組織に至るまで多様な領域をデザインとエンジニアリングで切り拓いているデザイン・イノベーション・ファームだ。
「産業がシフトすることでデザインはビジネスを構成する前提要素となった」と語るのは、Takramを率いる田川欣哉氏。インタビューの間、多種多様な事例を俯瞰しながら「それでも公開できるのは全体の2割程度ですよ」と軽やかに語る田川氏が見据える、デザインの現在地と描かれる未来とは。HEART CATCH西村真里子が聴いた。(2019年10月 flags!掲載記事を転載)
常に新しい領域に挑戦する3つの柱
──活動が多岐に渡るTakram社の事業内容を教えて下さい。
大きく3つの柱があります。
一つ目はProducts & Services。新規事業の文脈で、テクノロジー・デザイン・ビジネスを総動員する総合格闘技的なプロジェクトが多いです。例えばコニカミノルタさんの「Monicia(モニシア)」のプロジェクト。PMS(月経前症候群)のセルフモニタリングツールです。これはコンセプト検討の段階から参画し、ブランディング、クリエイティブディレクションなどをTakramのチームで担当しました。クラウドファンディングの立ち上げなどもサポートしています。
──プロダクト開発の初期、まず何をやるかという段階から進めているということですね。
そうですね。二つ目はFutures & Experimental design。サイエンスとデザインの中間のような領域です。一例を上げると、2015年に開発した「RESAS(地域経済分析システム)」のプロトタイプに連なる帝国データバンクさんとの取り組みで、「LEDIX」を昨年リリースしました。
──老舗のイメージがある帝国データバンクさんですが、その認識が覆されるようなスタイリッシュさですね。
帝国データバンクさんのデータサイエンティストの皆さんとTakramのデザインエンジニアでタッグを組んで開発しました。経済産業省が2017年12月に選定した「地域未来牽引企業」の、企業群の周囲に形成されている経済エコシステムをビッグデータ解析し、さらにそれをブラウザ上にて三次元で表現しています。データビジュアライゼーションの世界でも先端を走るプロジェクトですね。用いられているデータは帝国データバンクさんの企業データと企業間取引データです。地域内外の取引状況や経済波及効果といった主要企業の影響力から、大規模災害発生時における地域経済のレジリエンスなど、ビジネスや官公庁の意思決定局面における活用が期待されています。
──スタイリッシュでありながら、シリアスな文脈で活用される。
「LEDIX」は一例ですが、Futures & Experimental designの領域は、世の中に無いようなものを自分たちで作っていく類の仕事です。
三つ目がBrands & Strategy。ISSEY MIYAKEさんの「FLORIOGRAPHY」や、メルカリさんのロゴのリニューアル、日経新聞さんのコーポレートブランディングなどをサポートしています。テクノロジーを必要としないパッケージデザインや空間デザインなども手掛けています。
──多彩な取り組みで、それぞれテイストも異なっていますね。
組織として統一されたデザインテイストは持っておらず、プロジェクトごとに個別につくり込んでいます。Takramが手掛けているプロジェクトで、僕自身がプロジェクトに入っているのは全体の10%未満ですね。
──Takramのメンバーはタレント揃いという印象です。
たしかに、クリエイティブリーダーシップを取っていけるような人材は多いと思います。通常そういった人種は、会社の外に出ていかないとなかなか見つからないと思うのですが、Takramではフロアをウロウロしているだけでも、様々な方向の感度の高い話を聴くことができるのが、とてもいいところですね。

なぜデザインなのか?
──2018年のCESでトヨタ自動車さんが発表した「TOYOTA e-Palette Concept」はインパクトがありました。産業を跨いだ多くのプレイヤーに自動運転時代のビジネスを自分ゴト化させるのに秀逸なデザインだったと感じています。
「TOYOTA e-Palette Concept」は、世の中に対する波及、影響が大きいプロジェクトでした。
──デザインが入ることで、市場に対しての浸透の速度や普及率が高まります。現在、デザインエンジニアリングやクリエイティブリーダーシップという概念はデザイン領域の垣根を越えて、経営全般に重要となっているように思います。Takram社として、クリエイティブやデザインの影響力をどう感じていますか?
デザインの影響力は高まってきたと思います。産業においてデザインが重要となってきたのは2000年前後と考えられていますが、その要因はコンピュータの発達、インターネットの普及、そしてスマートフォンの誕生です。デジタルが人間の手元に届くようになり、産業全体がシフトしました。デザインだけではなくマーケティングの考え方が変わり、メディアの考え方も根本から変わった。非常に大きなインパクトです。
サービスやプロダクトがアナログからデジタル上に移ってきて、人間の手元で使われるようになりました。UIやサービスデザインの出来不出来が、価格設定や販売チャネルに匹敵するような重要な要素になってきた。これがインターネット以降におけるビジネスの特徴といえます。
──ユーザー体験が重要になってきた。
そして、そのユーザー体験は誰がつくれるのかという問題があります。ビジネスの教育を受けた人や、テクノロジーの教育を受けた人にとって、人間観察とか、人間のエモーショナルな動きなどは専門外の領域です。私も工学部の出身ですが、そのような専門教育は受けませんでした。そしてこの「人間」にアクセスする手法を豊富に蓄えているのがデザインの領域で、デザインとコンピューターサイエンスがくっついたところに、UIやUXができてきた。

インターネットより前の産業においてデザインは、「nice to have」だったのかもしれません。乱暴な言い方をすれば、なくても死なない。インターネット以降のビジネスにおいてのデザインは、「must have」。いわば家をつくるときの基本部品であり、それがないとそもそも家が建たない。つまり、デザインを持たないということが、ビジネス上の前提で成立しなくなったということだと思うんですね。
更にいま、第4次産業革命といわれている時代では、デジタルが物理側に染み出しているような状況です。いわゆるスマートリテールやD2Cといった業態が誕生したり、自動運転の実現が目前に迫ったりしています。フィジカルとデジタルのハイブリッドが、フィジカルオンリーを塗りつぶしていく世界になりつつあります。
──これからのSociety 5.0では、更にそれが進むと言われていますね。
デザインが主要部品になってきたデジタルが物理層に浸透してくると何が起こるか。全産業的に、デザインを駆使しなければならない場面が増加していきます。この潮流の中で、デザイン自体も進化を迫られています。もちろんデザイナーも。
──田川さんはRCA(Royal College of Art)のご出身ですが、その時に何を学ばれましたか?
RCAには、エンジニアリングを勉強した人たちをデザイナーとして再教育する、つまり工学もわかるしデザインもわかる人を育てるイノベーション・デザイン・エンジニアリングという学科があります。だから、僕みたいな工学部を卒業してデザインに関心がある人間がたくさんいて、楽しかったといいますか。当時日本の中ではあまりいないタイプだったと思うんですが、RCAではすでにしっかりした教育がなされていて驚きました。
──田川さんのキャリアはユニークですよね。今の世の中に必要とされていると感じます。
たまたまだと思います(笑)。単純に時代のほうが変化していて、たまたま求められるようになったと思っています。
──このような未来は見越していましたか?
大学生の頃は、あまり深くは考えていませんでした。工学部の学位を持っている人間でデザインのマスターレベルの教育を受けられるところは世界でも限られていて、スタンフォード大学でIDEOのメンバーたちがやっていたプロダクトデザイン学科かRCAの2択という感じでした。スタンフォードは理系におけるプロダクトデザイン教育ですのである程度想像がついたんですが、RCAは「なんじゃこりゃ?」と。自分が人生の中で遭遇したことの無いアーティストタイプの人たちも沢山いて、全く想像がつかない部分が多くて。それでRCAに決めました。面白そうだったんですよね。
──無邪気と言うかチャレンジャーというか。
チャレンジャーだったかもしれないですね、今にして思えば。あとは、建築学科の親友の影響や、インターンでデザイナーが活躍している現場を見て、ということもあるのですが、決定的だったのは山中俊治先生の弟子になったこと。RCAを紹介してくださったのも山中先生ですし、山中先生との出会いで僕の人生は大きく変わりました。
チェンジメーカーを既存概念の重力圏外へ
──新しいコトやモノを興す時に大切にしていることはなんでしょうか。
「新しい」ということを考える時に、切り口としてはふたつ必要と思います。まずそもそも「新しいものである」ということ。そしてそれが社会に対してどのように浸透しうるのかということ。それは「新結合」と「社会浸透」とに整理することができます。
新結合とは、今まで組み合わさってこなかった要素が新しい形でパッケージされて、新しい価値が生まれるということです。研究開発とか個人の直感とか、いろんなことがきっかけとなって起こります。もうひとつは社会浸透。それがないと、いくら新しいものが生まれても社会に変化が起きたことになりません。
プロジェクトにあたっては「1st win」と「2nd win」という言葉も使います。本当に新しいものができるのか。そして企業が、その新しいものを社会に出す決断をするのか。少し重い話ですね。
大きい企業であればあるほどリスクセンシティブなので、そういった企業がいかに新しいチャレンジに対して舵を切るのかとか、舵を切る人が出てきた時に、その大きな組織が、組織として許容するのかとか。つまり1st winは社内の合意です。
──2nd winは?
2nd winは、市場でユーザーを獲得できるかという話です。合意形成と社会での成功は全く別の領域ですので、両方よく考えておかなければなりません。勝負には2回勝たなければいけない。
──それを二人三脚、クライアントとチームになって勝ちに行くというスタイルなんですね。
クライアントというよりはパートナーに近いかもしれませんね。

僕らは、チェンジメーカー、つまり変化を起こしに行く人たちと仕事をしたいと思っています。ロケットで例えると、一番上のところにチェンジメーカーがいて、僕らは補助ロケットのような形で、その重い先端を重力圏外まで飛ばしていくようなイメージです。既存の概念に引っ張り込もうとする重力に逆らって、あの手この手で大気圏外まで飛ばしていって、軌道上にリリースしていく。Takramはそれを数限りなくたくさんやっているイメージなんです。
だから、僕たちのなかでこういうチェンジを起こしたいという場合もあるはあるんですけど、大概はチェンジを起こしたい人たちが、僕たちのところに相談にいらっしゃる。そこで、打ち上げ角はこうしたほうがいいとか、どこで打ち上げたほうがいいとか、ロケットはこれくらいのサイズがいいですよとアドバイスをさせてもらいます。
彼らだけだと重力圏外を越えられなかったものが、僕らも一緒に飛んでいくことで重力圏外に到達して、どの高度の軌道に到達できるかを共に考える。
──新しい変化にはリスクも伴うし、既存に引っ張られる重力も強くなります。
短期的に考えれば、今まで通りのことを少し改善して、最適化する。それが一番正解だと思います。けれどその最適化自体も、挑戦の種があったからこそのものだと思うんですよね。最初にリスクを背負って新しいことをやってくれた人たちがいるわけですから。
だから僕はスタートアップの人たちも大好きです。そして、大きな組織の中で新しいコトを立ち上げて、既存に挑戦しようとしている人たちも。そういった人たちとたくさん仕事をしていきたいと考えています。
デザインエンジニアリングができること
──ロケットの例えが非常にわかりやすいのですが、田川さんの経験値や、デザインエンジニアリングの力が、その推進力にどういったかたちで効果を発揮しているのか、教えていただけますか?
具体的なところで言えば、実務的レベルで非常に重要なのはプロトタイピングです。プロトタイピングのない新しい事業開発はパワーポイント資料とかドキュメントだけで進めるかと思いますが、それだけだと決断が難しい場合があります。新しいコトやモノって、前例がありませんよね。「seeing is believing」で、人間は見たものしか信じない傾向があります。見てないものに賭けられる人は、そんなに多くはない。
プロトタイピングが優れている点は、具体的にこういうことがしたいという抽象的なビジョンと、具体化した実物、エビデンスが示されることです。そして両者が体感的にわかる。それによって、物事が大気圏外に行くであろうことがわかるんです。
──文章だけだと、伝わりにくいですものね。
プロトタイピングの有無で、質もスピードも大きく異なりますね。
デザインエンジニアリングにはテクノロジーとデザインというふたつの機能があります。デザインが担当するのはユーザーへの視点です。デザインの観点がはいることで、今進めているプロジェクトが社会浸透したあとの話を思い描くことができる。例えば「TOYOTA e-Palette Concept」がそうですね。ビジュアライゼーションは、デザインが得意とする領域です。
そういう意味では、僕らはデザインもエンジニアリングも、目的というよりは、手段と捉えています。
──では目的はどこにあるのでしょう?
目的は未来。今よりも良い状態にあるといいなと。
そのためには変化を起こしていく人が必要です。なぜ変化が必要かと言うと、色んな意味で世界が動いているので、動き続けなければ過去のモデルと実態の間にどんどんギャップが生じてしまう。そこを新しくしていかなければならない、という意味です。
変化の起こし方でいえば、プロトタイピングの質を高めて、変化のスピードを増せば増すほどロケットの発射角が上がっていく。ではどんな人にそれができるかといえば、デザインエンジニアリングを具体的に考えられる人のほうがいい。目的からの逆算で考えていますね。

変化を起こす人はBTC、つまりビジネスとテクノロジー、そしてクリエイティブの3つを全部取り組む必要があると考えています。BTCのそれぞれを三位一体で話せる個人やチームが、補助ロケットの機能を果たす。ですがそれはあくまでも土台です。その中心にはビジョンとか、個人の強いキャラクターやカリスマがある。それがうまくハマった時に、ロケットが大気圏外に行くというイメージで仕事をしていますね。
──スタートアップや新規事業に携わって、途中で諦めてしまう人も多いですよね。彼ら彼女らをそういった能力でエンパワーメントできれば、よりよい未来が描けると感じます。
そうですね。僕らはプロフェッショナルファームなので、お医者さんや弁護士と一緒なんです。コトをうまく進める方法を知っているというか。大気圏外に飛ばす方法を知っている人たちが集まっているということだと思います。
変化を起こせる人が増える未来に
──困難な状況になった時はありますか?
難しい事だらけだと思いますよ。特にプロジェクト最後の出口付近、登山で考えると山頂付近が一番きつい。ただし、「峠を越える」という表現もありますが、ピークを越えたあと、実際にこうなったらいいなと思っていることが世の中で現実に起こるということを目撃することがあるんですよね。
それを目撃すると、つまり変化が実物として社会に起こり続けていくと、あまり途中の困難を困難と思わないようにしようと考えるようになります。それに目を奪われすぎないようにする、皮膚の中にいれない、そばには置いておくけど、目的に向かって行くことを重要視する。
──変化が現実になっていることを見てこられているからこそ、ですね。
そうかも知れないですね。「大変だな」と思いながら、「でもこういったことは前にもあったな、もうその大変さは思い出せんな(笑)」という。いつも思うのは、そんな簡単な話、無いよねと。世の中を変える仕事って、甘い話ではないわけです。
──話を伺えば伺うほど、田川さんは本当に自然体だと感じられますね。
最近はよく「解像度」という言葉について考えるんです。AかBかという大きな選択肢ではなく、その間にある無限の可能性、選択肢、その微差でうまくいくかどうかが決まってきます。その見極めに求められるのが高い解像度。「なになにの時代は終わった」「この手法は古い」といった全否定の表現は、そのバランス感覚にはそぐわないんですね。
料理で例えると、美味しいとか美味しくないとか、僕らが判断している解像度って非常に細かいですよね。シンプルな料理でいえば焼き魚。美味しいを決める要素には、素材や焼き加減、火の通し方。表面のパリッとした感じとか、どれくらいお塩が振られているかとか。より込み入った料理になったら更に細かいレベルになっていく。料理には素材と調味料が無数にあって、しかもそれを料理人がある意図で仕上げて、なおかつ出来たての何分くらいでお客様にお届けすると美味しいか、というレベルで僕らは食に接しているわけです。
だから、手段側の話で「これは古い」という表現って、素材の話で言えば「もう肉は終わった」「もう塩は古い」と言っているようなものだと思うんです。
なぜ社会の枠組みが食くらいの解像のレベルで語られないのかというと、それって未成熟だからだと思うんですね。人類有史以来、人間はずっとものを食べているので、ものすごい長い時間の中で洗練されている。民主主義や企業という考え方だってたかだか200年。
──荒くても当然、と。
正解って、精巧なガラス細工のようにものすごく細かいチューニングのもとで作り込まれたものにしか発生しないのではないかなと思っています。
──田川さんが理想とする社会を教えていただけますか?
変化を起こす側に回る人たちが、もっと増えたらいいですよね。特に日本において。既存の仕事を着々と進める人に対して、変化を起こす人は割合として10:1くらい必要だと思います。今は100:1くらいでしょうか。
もちろん全員が変化を起こす人である必要は無いのですが、これからの30年くらいは既存の古いフレームワークを新しくしていかないといけないフェーズですので、そういう意味でも変化を起こす人が増えるといいなと思っています。新陳代謝が備わっている社会で、適応や変化がエコシステムとして回転しているような状況がベター。ベストかどうかはわからないですが。
──変化をエコシステムに組み込んでいく。
BTC人材の話や大学で教育に関わることをやっているのは、変化を起こせる人たちを体系的に増やしていくことが重要と考えているからです。
未来は小さな変化の積分値ですから、個別では小さな変化でもそれをどれだけたくさん起こせるかで10年後の未来は変わってきます。未来というと大きすぎるんですけど、ひとつひとつの変化を確実に実現していくということであれば、比較的地に足の着いた目標にしやすいと考えています。
2019年10月 flags!掲載記事を転載